中華街ヤワラートには、大通りはもちろん路地を入ったところにも名店が潜んでおり、この数年でヤワラートにある何十もの店舗を食べ歩いた私でさえも、未開拓な食堂や屋台がどれだけあるのか把握すらできない、混沌としたエリアです。
ヤワラートに住んでいるのは中華街だけに華僑の末裔が多く、彼らがタイ料理に与えた影響は計り知れません。華僑の中でも特に潮州地方から渡ってきた華人がもっとも多いと言われ、タイラーメンの「クイッティアオ」は潮州料理の粿条(グオティアオ)が由来だという説もあり、潮州料理を抜きにしてタイ中華料理は語れないほど、あらゆる料理に存在感を色濃く残しています。
実は私、2019年の年明け早々からその潮州へと渡ってきました。タイ料理に影響を与えた料理を現地で食べてみたかったためです。
潮州レポートは後日、「激旨!タイ食堂」で公開しますのでそちらもお楽しみに!
閑話休題。
華人が本格的にタイへ渡ってき始めたのは1800年代後半。先述したように華人でもっとも多いのが汕頭を含む潮州出身者。その他には福建、広東、海南、客家、台湾など。
潮州料理店はヤワラートに多く、広東料理や福建料理もまぁ珍しくないありません。ところが客家料理ってのは、客家がもともと少ないこともあり、どういった料理なのかも分からない。
以前記事やYouTubeで紹介した、豚の脳みそスープを出す『ルークチン マンサモンムー タイタン』の店主は、客家の末裔であり、このスープは客家料理の一つだとおっしゃっていました。
客家はこんなゲテモノばかり食べていたわけではないでしょうが、私が取材した中で客家系華僑の店がここだけだったこともあり、「客家」=「豚の脳みそ」という方程式が刻み込まれてしまっているのです。
目次
とにかく見つけづらい『ラーンヨグア』
店があるだろうと思われるヤワラートの一角を10分ほど歩き回きまわったのですが、ついに見つけることができず、角地にある商店のおじちゃんに訊くことに。
「その店ならこっちだよ。付いてきな」
おっちゃんは独りで営んでいるであろう自身の商店を放置し、私を引き連れ、探し回っていた店へと案内してくれました。
探していた時は完全にスルーしていた小さな路地があったんですが、おっちゃんはそこへずかずかと侵入。奥まった場所に建っている民家の扉を開けました。
「おーい、日本人を連れてきたぞー」
友達の家にでも来たのかと思いきや、どうやらここが探していた『ラーンヨグアร้าน ยกฮั้ว』のよう。
表に看板は掲げておらず、店名の記載は一切なし。しかも細い路地の奥に立地しているため、見つけづらいこと甚だしい。
私を案内してくれた商店のおっちゃんは、店の方と言葉を二つ三つ交わし、すっと去っていきました。
このおっちゃんがいなければ、あと何十分迷っていたか…。
『ラーンヨグア』は客家系のタイ食堂だった!
店内には中華レストランで見るような丸テーブルが2つと、4人テーブルが2つほど。私は店に入ってまず驚いたのは、受付け(?)の机にあった電話機です。昭和のど真ん中に使われいたような電話機! スマホが普及しまくっているこのご時世、まさかこんな電話を使っているわけはないだろうと聞いてみたら、現役バリバリで使っているという。
どんだけ物持ちがいいんだ…。
超旧型電話機の横にあるのは、これまた骨董品と思わしき五つ珠ソロバン。スマホが普及しまくっているこのご時世、飾っているだけのものかと思いきやこれもバリバリ現役!
私が食事をしている最中、店主の女性はこのソロバンを弾いてお会計を計算していました。
ソロバンというタイ語を調べてみたら「ルークキッド(ลูกคิด)」というそうです。使うことはないと思われますが…。
「ここへ移転してからは30年ぐらいだけど、前の場所を含めると60年以上やっているかね」
私が話しかけたのは、店の入り口で座っていたお婆ちゃん。現在80歳という彼女はこの店の先代店主です。70歳まで現役で調理していたそうですが、いまは娘さんに任せているそうです。
『ラーンヨグア』で注文した4品
背の小さな女性スタッフが手渡してくれたメニューには、当然ながらタイ語しか記載がありません。
現店主の女性におすすめ料理を聞き、注文したのがこちらです。
サイトート(内臓の揚げ物)/ไส้ทอด 200バーツ
モツをあげたサイトート。
サクサクしていておつまみ感覚です。
センミーパットカオマーク/เส้นหมี่ผัดข้าวหมาก 200バーツ
細麺のセンミーを炒めた麺料理なんですが、食べたことのない味付け。店主にどういった調味料を使っているのか聞いてみたけど、「普通のものよ」とさらっとかわされました(笑)
私の憶測ですが、イエンタフォーで使う紅腐乳(ホンフウルウ)を使っているのではないかと。
ゲーンチュールークチン/แกงจืดลูกชิ้น 120バーツ
「うちのルークチンは自家製で、小麦粉を使っていないのよ」
女性店主がそう話すように、ここのルークチンのプリプリ感は素晴らしい。これまで食べたことがないほど秀逸な魚のつみれです。
ぜひ食べてみてください。
ルークチン チャイターオヌン/ลูกชิ้นไช้เท้านึ่ง 150バーツ
料理名にルークチンとありますが、大根を使った蒸し饅頭(?)のような一品。客家料理が由来なのかも。
おすすめしてもらった4品とも、ここで初めて食べる料理ばかり。客家系のタイ料理店が希少だからでしょう。
タイ語の全メニューです
立地場所を探すだけでも一苦労したほどのローカル店なので、英語メニューなどあるはずもなく、メニューに記載されているのはタイ語のみ。しかも金額の記載するありません!
注文のハードルが高すぎるので、カタカナ併記した全メニューを書き出しておきます。
ムーサームチャンオップパックヘーン/หมูสามชั้นอบผักแห้ง
ガポムーパットギアムチャイ/กระเพาะหมูผัดเกี่ยมฉ่าย
サイムートート/ไส้หมูทอด
フォーンタオフートート/ฟองเต้าหู้ทอด
フォーンタオフーナムデーンパックソーポン/ฟองเต้าหู้น้ำแดงผักโสภณ
タオフーカオマーク/ トムチュート/ ヌン/ トート/ ナムデーン/เต้าหู้ข้าวหมาก/ต้มจืด/นิ่ง / ทอด/น้ำแดง
タオフーカオトムガティアムナムデーン/เต้าหู้ขาวต้มกระเทียมน้ำแดง
ガイオップクルア/ไก่อบเกลือ
ガイクアクルア/ไก่คั่วเกลือ
ヌアペットパットキンオーン/เนื้อเป็ดผัดขิงอ่อน
ヌアパットマラ/เนื้อผัดมะระ
ヌアパットナムマンホイ/เนื้อผัดน้ำมันหอย
ヌアプラーガポンパットタオシー/เนื้อปลากระพงผัดเต้าซี่
ヌアプラーガポンナムデーン/เนื้อปลากระพงน้ำแดง
ホアプラートムプアック/หัวปลาต้มเผือก
ホアプラータオフー/หัวปลาเต้าหู้
ホアプラーオップタオシー/หัวปลาอบเต้าซี่
ルークチンプラーナムデーン/トムチュート /ลูกชิ้นปลาน้ำแดง / ต้มจืด
ルークチンムーナムデーン/トムチュート /ลูกชิ้นหมูน้ำแดง / ต้มจืด
ルークチンルアムナムデーン/トムチュート /ลูกชิ้นรวมน้ำแดง / ต้มจืด
トートマンクン/ทอดมันกุ้ง
クンパットメットマムアン/กุ้งผัดเม็ดมะม่วง
クンパットトゥアランタオヘットホーム/กุ้งผัดถั่วลันเตาเห็ดหอม
クンオップウンセン/กุ้งอบวุ้นเส้น
クンペサ/กุ้งแป็ะซะ
パットパックプアイレンナムマンホイ/ผัดผักปวยเล้งน้ำมันหอย
パットパックガートホームカオマーク/ผัดผักกาดหอมข้าวหมาก
パットミールアン/ผัดหมี่เหลือง
パットセンミーカオマーク/ผักเส้นหมี่ข้าวหมาก
予約おすすめの特別メニュー
特別メニューといった表記で掲載されている料理です。興味を惹かれたのは最上段の「プリンタレー ナームデーン ス ケ/ปลิงทะเลน้ำแดงสูตรแคะ」。
プリンタレーというタイ語はナマコです。タイでナマコ料理があることを初めて知りましたが、料理名の最後に客家を表す「ケ/แคะ」という客家を表現するタイ語が入っているので、客家料理が由来であることは間違いないでしょう。
2段目のパオフー(เป๋าฮื้อ)はアワビ。ナマコをはじめアワビなど高級食材を使った料理はいったくお幾らなのか…。
下から2番目のルークチン チャイターオニンなどは「土日のみ」と書いてありますけど、私が来店した平日でもオーダーできたので、食べてみたいと思ったらとりあえず注文してみることをおすすめします。
プリンタレー ナームデーン ス ケ/ปลิงทะเลน้ำแดงสูตรแคะ
パオフー ナームデーン/เป๋าฮื้อน้ำแดง
ヌアエントゥン(牛すじの煮込み)/เนื้อเอ็นตุ๋น
ムーデーン/หมูแดง
カームー プリアオワーン/ขาหมูเปรี้ยวหวาน
ไก่ต้มเหล้า
ヌアパ トゥン ヤージン(山羊肉の煮込み 11月-1月限定)เนื้อแพะตุ๋นยาจีน(เฉพาะฤดูหนาวช่วงเดือน พ.ย. - ม.ค.)
ルークチン チャイターオヌン(土日のみ)/ลูกชิ้นไช้เท้านึ่ง(เฉพาะ ส. - อา.)
ガパオプラー ナームデーン/กระเพาะปลาน้ำแดง
三代で守り続ける客家系タイ食堂
料理をサーブしている女の子、身長がかなり低いので16、17歳かと思っていたんですが、本人に訊いてみると21歳なんだとか。
先代オーナーであるお婆ちゃんの孫であり、現オーナーの娘さんだそうです。
私が食事を終えたころ、旦那さんも帰ってきたのでみなさんで記念写真を撮影させてもらいました。
ゆくゆくは娘さんが跡を継ぎ、客家の味を受け継いでいくのでしょう。
【SHOP DATA】
「ラーン ヨグア(ร้าน ยกฮั้ว)」
TEL: 02-226-2525
OPEN:11:00-18:00(基本無休、ギンジェー期間中は休み)