高級コンドミニアムが建ち並び、昔ながらの食堂や屋台が影を潜めたバンコク・トンロー通り。
かつては歩道にテーブルを並べる屋台が軒を連ね、地元の人々や観光客で賑わっていたこの通りも、いまやすっかり様変わりしてしまいました。
「もはやB級グルメとは縁遠い場所」
と感じながら歩いていたある日のこと。
ふと目に入ったのは、狭い入り口に立って調理を続ける店主の姿でした。

そしてその奥に広がるのは、細長い「うなぎの寝床」のような空間。
まるで時が止まったかのような佇まいに、私は自然とその中へと引き込まれていきました。
店名のない、けれど心に残る一杯
驚いたことに、この店には看板も店名もありません。
思わず店主に尋ねると、にこやかに「名前はない」と返ってきました。


てっきり長年この場所で営業している老舗かと思いきや、今の場所で店を開いたのは4〜5年前とのこと。
それでも、この空間が放つ空気感には、どこか懐かしさと深みがあります。

店内はとにかく狭く、客とスタッフがすれ違うにはどちらかが体を斜めにしなければならないほど。
メニューはガオラオとご飯、それぞれの普通盛りと大盛りというシンプルさ。

にもかかわらず、朝から地元のタイ人客が次々に訪れる様子を見れば、この店のガオラオに何かがあるのは明らかです。
スープの透明感、味の奥行きに驚かされる
今回注文したのは、もちろん「全部乗せ」のガオラオ。
モツや肉団子、レバーなど、すべての具材をトッピングしていただきました。

まずはスープをひと口。
澄んだクリアスープからは、優しい出汁の香りがふわり。
口に含むと、あっさりとしながらも奥行きのある旨みがじんわり広がり、気づけば何口も飲んでしまいます。
特筆すべきは、モツ類の臭みのなさ。
まったくクセがなく、柔らかく煮込まれた具材を付けダレで食べると、ご飯が止まらなくなります。

このクオリティで普通盛り45バーツ、ご飯をつけてもわずか50バーツ。
早朝から昼過ぎまで絶えない客足にも納得です。

名前のない名店で感じる温もり
店主は無口ながらも温かく、こちらが撮影をお願いすると、照れながらも快く応じてくれました。
名前も看板もないこの店ですが、料理に込めた誠実さと味が、確かな「看板」となっているように感じます。

トンロー通りで見つけた、まるでタイムカプセルのような一軒。
きらびやかな街の片隅に、こんなにも素朴で美味しい食堂があるとは思いませんでした。
店名 | トンローの名も無きガオラオ食堂/เกาเหลาเลือดหมู |
営業時間 | 05:00-14:00 |
定休日 | 日曜日 |
Googleマップ | https://maps.app.goo.gl/YP8mW7nMVQBNLcqA8 |